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[コラム]ALPS処理水に含まれるトリチウムの性質と健康への影響

放射線基礎知識放射線被ばく


近年、「トリチウム」という言葉を耳にする機会が多くなってきています。「トリチウム」は福島第一原子力発電所事故や廃炉作業に大きく関係している放射性核種です。ここでは「トリチウム」の基本について少し解説します。

「トリチウム」は水素の仲間の一つです。水素には「同位体」と呼ばれる仲間が3つ存在します。質量数が1の水素(H)、質量数が2の重水素(じゅうすいそ:D)、そして質量数が3の三重水素(さんじゅうすいそ:T)があり、この三重水素のことを「トリチウム」と呼びます。水素の仲間の中で唯一トリチウムだけが放射線を出す「放射性核種」であり、12.3年の半減期で放射線を出してHe(ヘリウム)に壊変します。放射線にはアルファ(α)線、ベータ(β)線、ガンマ(γ)線等があります。トリチウムが放出する放射線はベータ線ですが、その中でもエネルギーが極めて弱く、空気中では約5ミリしか進むことができません。そのため、ベータ線であっても紙1枚でさえぎることができます。

このように、トリチウムの出すベータ線は弱いので、体の中に取り込んだときだけ影響を受ける可能性があります。体の中でのトリチウムの動きについては、一般社団法人日本放射線影響学会が取りまとめています。水として存在するトリチウムの体の中への取り込みは、食事や飲用、呼吸そして皮膚からの吸収が考えられます。体の中に取り込まれたトリチウムは血液や体液と一緒に体の中を巡り、最終的に体の外へ排泄されます。体の中に水として存在するトリチウムは10日で半分になるスピードで減っていきます。

一部のトリチウムは体内で体を作る分子に取り込まれます。この有機物の中のトリチウムは有機結合型トリチウムと呼ばれ、水に比べて少し長く体内に残ります。しかし、体全体で考えるとごくわずかです。水としてのトリチウムは速やかに排泄され、有機結合型トリチウムは極わずかであることから、トリチウムを体内に取り込んだ場合の人の体への影響、つまり内部被ばくは極めて小さいものになると考えられています。

解説者紹介

高村 昇
長崎大学原爆後障害医療研究所 国際保健医療福祉学研究分野・教授

経歴:
1993年3月:
長崎大学医学部卒業
1997年3月:
長崎大学医学部大学院医学研究科卒業
1997年6月-2001年10月:
長崎大学医学部原爆後障害医療研究施設
国際放射線保健部門助手
1999年6月-2000年7月:
世界保健機関本部(スイス・ジュネーブ)
技術アドバイザー (上職のまま)
2001年11月-2003年2月:
長崎大学医学部社会医学講座講師
2003年3月-:
長崎大学医歯薬学総合研究科公衆衛生学分野准教授
2008年4月-:
現職
2010年1月-2010年9月:
世界保健機関本部(WHO)
テクニカルオフィサー(WHO神戸センター、上職のまま)