2011年の福島第一原子力発電所事故後、福島県では県民健康調査において事故当時0歳から18歳だった約36万人を対象として甲状腺超音波検査を実施しており、平成23年の10 月から平成26年3月に行われた先行検査では、約30万人が検査をうけ、うち116名が悪性ないし悪性疑い、と判定されました。さらに、平成26年度から平成27年度にかけて行われた本格調査でも約27万人が検査をうけ、うち48名が悪性ないし悪性疑い、と判定されています。この結果について、県民健康調査検討委員会ではこれまでのところ福島では放射線被ばくと甲状腺がんとの関連は考えにくいとされていますが、これについては種々議論もされているところです。
一方で福島における放射線被ばくと甲状腺がんとの関連を考えるとき、チョルノービリとの比較等を通じた、因果関係の検証がきわめて重要となってきます。チョルノービリ周辺国のうち、もっとも事故の影響を受けたとされるベラルーシ共和国は事故の前から国全体でがん登録(がんと診断された症例を国家レベルで登録するシステム。毎年それぞれのがんがどのくらい診断されたかが把握できる)が存在していました。このベラルーシ共和国のがん登録を調べたところ、事故が発生した1986年から1989年の4年間で、事故当時0歳から15歳だった世代で甲状腺がんと診断されたのは25例でした。その後、同じく事故当時0 歳から15歳だった世代で甲状腺がんと診断されたのは1990年から1994年(事故後5年から8年)では431例、1995年から1999年(事故後9 年から13年)で766例、2000年から2003年(事故後14年から17年)では808例と増加が見られています。特に、甲状腺がんの増加は事故当時 0歳から5歳であった世代で1990年(事故後4年)から顕著に増加しており、この年齢群が放射線被ばくによる影響が多かったことがわかります。しかもこの傾向は事故後4年から10年後に顕著であり、事故当時の年齢が高い群に甲状腺がん・がん疑いと診断された症例が多く見られている福島とは、その状況が大きく異なることがわかります。
今後も引き続き、福島県の将来を担う世代の健康を見守ることはとても大切です。同時に、上記のようなチョルノービリとの発症年齢の比較や福島県内の地域における発症頻度の比較などを行うことで、因果関係について科学的に検討することが極めて重要であると考えられます。
高村 昇
長崎大学原爆後障害医療研究所 国際保健医療福祉学研究分野・教授
経歴:
1993年3月:
長崎大学医学部卒業
1997年3月:
長崎大学医学部大学院医学研究科卒業
1997年6月-2001年10月:
長崎大学医学部原爆後障害医療研究施設
国際放射線保健部門助手
1999年6月-2000年7月:
世界保健機関本部(スイス・ジュネーブ)
技術アドバイザー(上職のまま)
2001年11月-2003年2月:
長崎大学医学部社会医学講座講師
2003年3月-:
長崎大学医歯薬学総合研究科公衆衛生学分野准教授
2008年4月-:
現職
2010年1月-2010年9月:
世界保健機関本部(WHO)
テクニカルオフィサー (WHO神戸センター、上職のまま)