私たちの日常生活の中に、1ミリシーベルト(mSv)と20ミリシーベルト(mSv)の話が、5年半前から突然入って来ました。6年前までは、シーベルト(Sv)※が人の放射線被ばく線量に用いる単位であることを知る人はほとんどいませんでした。
しかし、残念なことに2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故に伴い、慣れ親しんだ土地を離れて、遠方に避難することになった要因がシーベルト単位の放射線被ばく線量の数値です。原子力発電所事故に伴う住民避難目安の放射線被ばく線量に関しては、国際的に20mSv~100mSvの範囲で、各国政府が状況に応じて適切に設定することが提唱されています。政府は東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う緊急時被ばく状況において、放射線から身を守るための国際的な基準値(年間20~100ミリシーベルト)を参考にしながら、3つの避難区域を指定し、住民に対し避難指示を行いました。
1mSvの放射線被ばく線量に関しては、放射線利用に際して行う平時の計画被ばく状況において、放射線・原子力利用を行う操業者は、事業所境界の住民に対して年間1mSvを超えることがないように操業責任を課しています。平時の計画被ばく状況における人の放射線被ばく線量は、放射線業務に従事する人に対しては、年間最大50mSvを超えず、かつ5年間で100mSvを超えない被ばく線量管理を行っています。また、食品の放射線基準や除染を検討する基準にも年間1mSvを基に提示しています。そのため、年間1mSv以下なら安全で、1mSv以上は危険と誤解されている方もいます。
1mSvと20mSvも安全と危険の境界を示す基準でなく、放射線防護の施策上の数値です。今後、年間20mSv以下が確認され避難が解除された地で居住する方は、日常生活において自らの被ばく線量を把握し、被ばく線量低減手段や放射線教育、健康管理や生活環境地域のモニタリング等について関心を高め、放射性セシウムが残存する生活環境で暮らす放射線防護の知識が大切です。また、現存被ばく状況の開始線量は20mSvですが、長期的には年間1mSv以下を最終目標に対応されます。
なお、私たち地球上の人々は、自然放射線から年間1mSv~10mSvの被ばく線量を絶えず受けており、平均的には2.4mSvです。
また、事故や災害によるものではありませんが、宇宙放射線の寄与が高い航空機乗務員は、管理目標値として年間5mSvを提示し、最大4mSv程度、平均2mSvとの報告があります。また、日本人は病院で行う放射線検査等から年間平均4mSv近くの医療被ばく線量を受けています。私たちは絶えず放射線被ばくを受けて生活していることは確かです。
※シーベルト単位は、スウェーデンの放射線物理学者で放射線防護に業績のあったシーベルト氏の名前に由来しています。
菊地 透
公益財団法人 原子力安全研究協会研究参与
医療放射線防護連絡協議会総務理事
経歴:
1949年に東京で生まれ、放射線防護に係って45年間が過ぎた。この間に東京大学原子力総合センター、自治医科大学医学部RIセンターに勤務。現在は、公益財団法人原子力安全研究協会研究参与、医療放射線防護連絡協議会総務理事を担当。また、福島原発災害に関連して、福島県および隣県で多数講演し、「いまからできる放射線対策ハンドブック」(2012)を女子栄養大学の香川靖雄先生と出版。